房江ばあちゃんは子供のころ家が農家だったので、休みの日は手伝いをやらされ、貧乏だったのでこづかいも貰ったことがなかった。だから、家族で出かけたこともまるでなかった。そんな中、昭和35、36?年、東京の親戚のおじさんが家に寄った時に、福島競馬に回って帰ると言うので、両親の許しを貰って、その親戚のおじさんに競馬場に連れていってもらったそうだ。汽車に乗ったのも、福島でチンチン電車に乗ったのも初めて。そうして行った、はじめての競馬場。馬が走るのはあっという間なので、子供の房江ばあちゃんはレースを待っている間だけはとても退屈だった。でもはじめての遠出だったので、総じてうれしかった。
帰りに福島の駅前のどこかでカツ丼というものを食べさせてもらって、こんなうまいものがあったなんて、はじめて知った。親戚のおじさんは、帰っても、とうちゃん、かあちゃんには食べたこと言うなって。兄弟にも。…あの時、親戚のおじさんが馬券で儲かったんだなーと思ったのは、大人になってずっと後だったんだって。
「おめだじ、馬、儲がったらカツ丼食べさしてけろな」
トラコミュ競馬コラム